盲導犬パピーウォーカーの体験
ーラブラドール・レトリバーのパピーウォーカーをして思ったことー

盲導犬候補の子犬を預かり育てるボランティア(パピーウォーカー)の体験記です
盲導犬の実態や問題点、代替法などについての資料も加えました 2022年8月
2023年2月に更新しました

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I. パピーウォーカー体験記

II. 盲導犬関連の記事など

  1. ある盲導犬育成団体について

  2. いいことづくし!美談ばかりの盲導犬 実は利権がらみで問題だらけ

  3. 盲導犬の虐待問題 「鬼蜘蛛の網の片隅から」より

      単なる虐待問題に留まらない盲導犬育成団体への疑問 同上

  4. 盲導犬ピエール  「毎日が3K日記」より

  52017年10月8日に東武東上線 和光市駅(埼玉県)で起きた盲導犬「虐待」事件について

  6. 盲導犬(アイメイト)を蹴っている動画の件で質問書を送ったが回答なし PEACE活動報告Blogより

  7. 盲導犬は要りますか?「同行援護従業者(ガイドヘルパー)養成研修」レポート PEACE活動報告Blogより

  8. 「私が見た盲導犬の一生」 NPO法人JAVA(動物実験の廃止を求める会)のホームページより

  9. 盲導犬は要りますか?同行援護従事者(ガイドヘルパー)レポート第2弾 (7.の後編です)

      「ガイドヘルパーとその他の歩行介助法についてー人間の介助は犬ではなく人間自身が担うべきー」

  PEACE活動報告Blogより (2023年2月更新)

    ※1、3、4、6、7、8、9は外部リンク、   2、5は本文記事です(5の文中にも外部リンクあり)。

III. 寄稿

  1. 盲導犬の限界 視覚障害者に盲導犬ロボットを

  2. 盲学校 公開 参加レポート

  3. 埼玉・盲導犬「刺傷事件」の顛末 (2022年9月更新)


             I. パピーウォーカー体験記

 マスコミでも盲導犬が頻繁に取り上げられる昨今、パピーウォーカーをやってみたいと思う人も多いことでしょう。わが家でも念願かなってパピーウォーカーをしましたが、正直、思ったよりずっと大変でした。うちの場合、回りに経験者もおらず、犬を預かった盲導犬協会から経験者を紹介されることもなかったので事前に話も聞けませんでした。そこでパピーウォーカーを志す人の参考になればと思い、断片的ですがわが家の生(なま)の体験と感想をお伝えします。

1.あなたが預かるのは「盲導犬」ではありません

 わが家に来たのは何のしつけもされていない生後2カ月の大型犬(ラブラドール・レトリバー)の子犬です。盲導犬候補だからおとなしいなんて、とんでもない!普通のやりたい放題の子犬でした。家や家具はかじりまくり、しばらくはたれ流し(室内飼いです)、散歩は引っ張られてチョー危険。犬はあっという間に大きくなり25キロほどになります。

 しつけは必要ないと盲導犬協会から言われても、最低限のしつけをしないと困るのはこちらです。また、えさの銘柄や量は指定されていますが、レトリバーはとにかく食い気ひとすじなので、えさの量を守るのは結構大変でした。少し油断したすきに何でも(食べ物以外も!)食べてしまいます。預かった一年間いろいろな事件や事故が起こりました。幸い大事には至りませんでしたが。

 犬が病気になったら、万一行方不明になったら、最悪、死亡したら。また、犬のせいで自分が骨折などのけがをしたら・・・。そんな場合も想定して、預かる前に、起こり得るいろいろな事故について盲導犬協会と、パピーウォーカーの責任や負担費用がどうなっているかを事前にしっかり確認してください。生きものを預かるのですから、契約書にちゃんとそういうことが書かれているはずです。    パピーウォーカーをやってみたい思いが勝って「たぶんそんな事故は起こらないから」と契約書もよく読まずに署名捺印をするのはやめたほうがいいです。契約書がない場合は論外です。

2.お金も手間もかかります

 パピーウォーカーはボランティアなので、犬のえさ代や医療費は基本的には自己負担です(一部を負担してくれる協会もあるようですが)。わが家の場合、預かり期間が1年を超え、ワクチンと狂犬病注射を2度受けたのでそれだけで2万円を超えました。動物病院にもちょくちょくかかりましたが、盲導犬の子犬だからといって割引はありません。想定外のけがや病気の医療費についても、契約書に明記されているか事前によく確かめてください。

3.犬との別れに耐えられますか

 わが家でも「最初から一年で返すと決まっているのだから」と犬を預かったものの、毎日一緒にいれば情も移り、気持ちの上では「自分の犬」になってしまいます。一年後の別れはとてもつらいものでした。よくいうペットロス状態です。犬を返した後の面会には制限があるし、無事盲導犬になっても行く先を教える協会と教えない協会があるので、事前によく聞いてください。

 また盲導犬になれなかった場合、引き取って自宅犬として飼うことができる協会もあるので、引き取りを希望するのなら、前もって確認しておいたほうがいいです。

4.見学会(説明会)で大事なのは、犬のいる場所を見ること

 わが家も参加したのですが、盲導犬協会では月に一、二度一般人向けに見学会(説明会)をやっています。パピーウォーカーをやってみたい人は参加してみたほうがいいでしょう。その際大事なのは、説明を聞くだけではなく、実際に犬のいるところ(犬舎)を見せてもらうことです。犬の飼育や訓練は協会によって違うので、犬舎をみればその協会の方針が少しはわかります。あなたが本当に犬好きなら、協会の方針が自分のポリシーに合うかどうかよく考えてパピーウォーカーを始めるほうが賢明です。せっかく一年間手間暇かけて犬を育てるのですから。

 実際問題として盲導犬協会は全国に約11か所しかないので、選択の余地がほとんどないのですが、自宅に近いからという理由だけで、預かる協会を選ぶのはやめたほうがいいです。わが家では犬を返した後しばらくして面会に行きましたが、犬が環境の激変からか激やせしており、協会からは納得のいく説明がなく、犬舎も見せてもらえなかったので、大変驚き失望しました。その後他の映像でその協会の犬舎を見たのですが、狭い箱型の犬舎をビルの一室に積んで(コインロッカーを連想しました)、数十匹もの犬を入れていると知り愕然としました。

5.わが家の結論

 わが家の結論としては、もうパピーウォーカーは二度としません。自宅に他の犬や猫がいるとパピーウォーカーにはなれない決まりの協会が多いので、自分の犬を飼えば当然パピーウォーカーはできません。

 なお、これは予想外の結果でしたが、盲導犬制度自体についても多々思うことがありました。人間には「便利」な制度かもしれませんが、健常者でも大変な犬の世話は視覚障害の方には大きな負担でしょうし、犬の寿命から盲導犬としての稼動はせいぜい8年です。また盲導犬1頭に自治体が公費で約200万円を支払っていることも初めて知りました。盲導犬を何頭ももらう人もいれば、盲導犬は特別な人しかもらえないと思っている視覚障害者もいるそうで、これは非常に不平等だと思います。犬が苦手、または犬を飼う環境にない視覚障害者はこの恩恵を受けられないのです。さらに盲導犬になれなかった犬や引退した犬もボランティアに引き取らせるなどボランティア頼りの部分が多いのも無責任だと思います。 

 また犬にとってはどうなのか、短い一生に最低数回も飼い主が変わる、犬本来の体質まで否定するような訓練や盲導犬としての生活、しかも訓練しても3割くらいしか盲導犬になれない、なれない犬はどうなるのか、など大変疑問に感じました。

 盲導犬は昔のドイツで戦傷兵のために作られた制度ですが、科学の発達した現在なら、人間にも犬にももっとよい方法があるはずです。なぜ盲導犬制度だけに莫大な公金や寄付を使う必要があるのでしょうか。皆さんにもぜひ考えてほしいと思います。


II. 盲導犬関連の記事など

2.  いいことづくし! 美談ばかりの盲導犬 実は利権がらみで問題だらけ!

ーいいことばかり吹聴しているものに、ろくなモノはありませんー

訓練開始後、激やせし、衰弱した様子に。訓練士が近づくと震えていた

全く散歩させない・排泄は飼い主が指示した時のみ・マーキングも走るのも禁止・飼い主以外の人や、他の犬とのスキンシップも禁止・犬にとって大変重要な、飼い主とのアイ・コンタクトが全くできない・短い一生に飼い主が最低5回も変わる(繁殖時、パピーウオーカー、協会で訓練、ユーザー、引退後)・60代はおろか、70、80代の、犬を飼ったことがない人が大型犬の飼い主になる。

盲導犬の日常は、ペットは無論、他のどの使役犬よりも過酷だ。

訓練開始後、激やせし、衰弱した様子に。訓練士が近づくと震えていた

 盲導犬団体は全国に11団体あり、どの団体も公益法人や社会福祉法人認定を受け、公金から育成費や補助金を得、その他にも寄付など莫大な収入がある。某大手団体では、かつて年度総収入を、その年度の盲導犬育成数で割ると、1頭あたり4000万円以上になったほどだ。しかし盲導犬団体のうち2団体は長年、所有する犬の登録さえしてこなかった(違法)。訓練しても、盲導犬になれる犬は全体の3割以下だが、無登録だと、なれなかった犬の行方が全くわからない。また盲導犬団体は、大手は100頭以上の犬を所有するにもかかわらず、福祉目的という理由で、「動物取扱業者」にも入っていない。2013年の動物愛護管理法改正により、営利を目的としない動物の取扱業者を「第二種動物取扱業」とする届出制度が新設され、盲導犬団体もこれに含まれることになったが、第一種動物取扱業の適用対象からは除外されたままである盲導犬1頭が支給されるにつき、地方自治体から盲導犬団体に、盲導犬育成費として約200万円(税金)が支払われるが、その後盲導犬がどうなろうと、査察機能はない。短期間で盲導犬が引退、死亡、失踪(長崎の「盲導犬アトム事件」参照)しても、盲導犬団体や使用者の責任は不問のままだ。

 よく「数千人((の視覚障害者)が盲導犬を待っている」という宣伝を聞くが、これも事実に反する。最大手の盲導犬団体でも、盲導犬になるのは1年に50頭以下だが、盲導犬を申請するとほぼ年度内に支給される。また初回申請者より、2頭目以降の申請者が優先され、同じ人が繰り返し受給する場合も多い。実際には盲導犬の希望者は非常に少なく、盲導犬団体は視覚障害者に向けてさかんに「盲導犬を使おう」キャンペーンを行っている。無理に需要を作り、無理のある訓練で盲導犬を育成・支給するため、盲導犬の「虐待」通報が多発し、犬の中途引退、現役中の死亡も少なくないようだ。犬の寿命から、長くても8年しか「稼働」しない盲導犬。こんなに非効率で不経済な方法より、先進的な情報網や IT・科学技術を駆使すれば、合理的で普遍的な「福祉制度」を生み出すことは可能なはずだ。

 盲導犬になる主な犬種ラブラドール・レトリバーは30キロ前後になる大型犬で、健常者でも世話は大変だし、えさ代や医療費もかさむ。大半の視覚障害者は白杖を使って生活しており、「面倒」で経費のかかる盲導犬より、白杖歩行訓練の充実や補助、安全に歩くための器具や設備の開発・普及への助成、周囲の一層の見守りと手助けを訴える人も多い。現在の盲導犬制度は、税金の無駄使い、福祉の極端な不公平、犬の虐待ではないでしょうか。

盲導犬を増やすより、盲導犬のいらない社会を!

(元盲導犬ボランティアズ)



5. 2017年108日に東武東上線 和光市駅(埼玉県)で起きた盲導犬「虐待」事件について     管理人より

   この事件はアイメイト協会(練馬区の盲導犬育成団体)の男性ユーザー(盲導犬使用者)が、駅のホームで自分の盲導犬を怒鳴りつけながら宙づりにし、蹴り上げる動画が、居合わせた人のフェイスブックにアップされ、虐待ではないかとネットで大炎上したものです。この動画の視聴回数は約7万回に上り、種々のネットのニュースサイトでも取り上げられ、「週刊女性」(主婦と生活社)の記事にもなりました。この事件の当事者であるアイメイト協会だけでなく、全国の11盲導犬育成団体中8団体が加盟する「全国盲導犬施設連合会」も声明を出す事態に至りました(アイメイト協会はこの連合会には非加盟)。この事件の盲導犬は、事件後数日でユーザーから引き上げられ、このユーザーには二度と盲導犬は支給しないことになった模様ですが、詳細についてはアイメイト協会から何ら公的な説明が無いままです。

 この事件について、ネットのニュースサイトから下記の3本を紹介し、併せて全国盲導犬施設連合会の声明文と、アイメイト協会が自らの公式フェイスブックとホームページに掲載した声明文を紹介します。なお当時、アイメイト協会公式フェイスブックにもこの事件に関するコメントが多く寄せられました。

・2017/10/14 

炎上の『盲導犬を蹴る動画』利用者が人物特定!駅のホームで犬を蹴った男の名前や顔画像拡散!?所属盲導犬協会 は!?

・2017/10/25 

『盲導犬を蹴る動画』の盲導犬協会アイメイトが’’ネット私刑’’を訴え炎上!「蹴っていない」「虐待はなかった」と主張!?      

(上記2本の記事はPiXLS[ピクルス]に掲載されましたが、現在消滅しています)

2017/11/4 東洋経済 ON LINE  週刊女性プライム「盲導犬への暴力」騒動で見えた現状と問題点

全国盲導犬施設連合会 声明文 盲導犬を足で蹴っている動画について   

 

アイメイト協会は1014日には、自らのフェイスブックに以下の記事を掲載したが、1023日には態度を豹変させた。

2017/10/14 アイメイト協会フェイスブック「お知らせ 昨日アイメイト(盲導犬)を回収」

  「多くの問い合わせをいただいたネット掲載動画の件、ご心配をおかけしました。個別のお返事は難しい状況にありますので、こちらでお伝えいたします。問題の使用者判明から2日後の昨日ですが、アイメイトを使用者から回収し保護しましたのでご報告します。動画にあった行為は当協会として憤りを感じる許しがたいものです。また安全で正常な使用状況とも認められません。 今回は誠に遺憾な事態となりましたが、このような事が二度と起きないよう、使用者とアイメイトが信頼関係の上で最良のパートナーとなれるよう、今後とも当協会は歩行指導に努力してまいります。

・2017/10/23  公益財団法人アイメイト協会 盲導犬を蹴ったという動画について



III.  寄稿

寄稿1  盲導犬の限界 視聴覚障害者に盲導犬ロボットを

  (筆者は1年以上にわたり盲導犬ボランティアをし、盲導犬を使用する長年の友人もいる方です)

 盲導犬を連れた視覚障害者の事故が相次いでいますが、高齢化にともない、これから様々な事故が起こることが心配されます。視覚障害者のための盲導犬ですが、今、代替え手段が求められています。

 盲導犬の育成には多大なコストを有し、飼育・訓練に莫大な労力を要します。使用者にとっても犬の世話(食事、排せつ、手入れ、健康管理)もかなりの負担になり、犬の寿命から長くても8年で引退の時期が来ます。また、住環境、アレルギー、高齢等身体的な理由で盲導犬を持てない視覚障害者が圧倒的に多く、盲導犬はごく一部の視覚障害者しか使うことができないのが現状です。

 私は、全ての人が使うことのできる、盲導犬に代わるものはないだろうかと考えてきました。今、自動運転の車が走っています。 GPSが道案内もしてくれます。介護ロボット、お掃除ロボット、AIロボットと様々なロボットが身近なものとなっています。盲導犬は時代遅れなのでは?という思いになりました。

 調べてみると 盲導犬の役割を果たすロボットが研究、開発されていることがわかりました。例えば『日本精工』の盲導犬ロボット(註1)は、2016年に病院など屋内での施設案内用として実用化され、4年後の2020年には屋外利用の実現を目指すところまできています。ロボットなら盲導犬のように世話をする必要もなく、アレルギー等の心配もなく、メンテナンスを行えば使い続けることができ、安全性も高いと思います。

 視覚障害者の助けになりたいという、思いやりの心が技術開発に結実し、日本をはじめ世界中の道や駅のホームで盲導犬ロボットを見られることが目前にきていると感じます。このように盲導犬ロボット実用化への取り組みは着々と進んでいます。しかし、盲導犬を支援する団体は多いものの、盲導犬ロボットを支援する団体は見当たりません。

 これからは、全ての視覚障害者が平等に使用できる、視覚障害者の真のパートナーとなる盲導犬ロボットが認知され応援されることが望ましいと思います。2020年の東京オリンピックには、盲導犬ロボットを連れた方を見守り、声を掛け合える社会になっていてほしいと願っています。

 これからも盲導犬ロボットの研究開発をしている企業に、応援のメッセージを送っていこうと思います。 

(註1)日本精工株式会社は、日本の ベアリングメーカー (本社・東京都品川区)。国内ベアリング業界最大手。世界では3位。盲導犬型ロボットの研究開発にも携わり、2011年『国際ロボット展』 に出品以降、ロボットの 改良実用化に努めている。

(春日 里美)


寄稿2    盲学校公開 参加レポート

 6月下旬に、ある都立盲学校の学校公開に行ってきました。
 私が住む市の市報に、学校公開の案内が載ったのがきっかけです。私は初参加ですが、この公開は学校にとっては大きな年中行事のひとつのようで、雨にもかかわらず100名以上の来場者がいました。生徒の家族、民生委員などの福祉関係者、看護学校の学生なども大勢見受けられました。看護学校生は、授業の一環として参加している様子でした。私は、視覚障害者の歩行ガイドが必要な場合は、犬ではなく人間がするべきであり、それが最善と考えますが、学校現場ではどうなのか、少しでも知ることができればと思い参加しました。

 公開の内容は、講堂での学校の概要説明とパネル展示による学校紹介、授業の自由な参観、具体的な教育相談などで、先生方も忙しそうに立ち回っていました。当日は公開用の授業ではなく、普段の授業が行われていました。この盲学校は、都立4盲学校中、幼稚部から高等部専攻科まである唯一の総合校で、今年度は69名の児童・生徒が在籍。寄宿舎もあり、32名が利用しているそうです(一時利用も含む)。
また現在は、一般の学校と盲学校の両方に籍を置くことも認められ、曜日によって一般校と盲学校に通い分けている生徒もいるそうです。ただ、この場合、高学年になって学習内容が難しくなり、教科書の字も小さくなってくると、盲学校だけにしぼって通学する生徒が多いとのことでした。

  全盲の生徒は卓上に点字のタイプライターを、弱視の生徒は拡大読書機を置いています。授業はマンツーマン形式が多く、多くても生徒が4人に先生が1人という構成でした。盲学校などの特別支援学校では、1クラスで先生1人に生徒は6人以下、担任は1クラスに2名と決められているそうです。

 一通り参観した後、「教育支援コーディネーター」のP先生に話を聞くことができました。P先生は、最初に講堂で、校長、副校長に続いて説明をした方です。P先生によると、歩行の基本はまず白杖歩行。小学部では週1回45分の歩行訓練授業(校外で)があり、6年生までにひとりで通学できるようになることを目指している。それまでは殆ど生徒の家族が、通学に同伴している。当校は鉄道の最寄り駅から徒歩約15分ですが、途中横断歩道も複数あり、歩道の狭い箇所も見受けられました。また当校は生徒の家族の負担軽減のため、昨年「通学ボランティア制度」を立ち上げ、生徒の通学に同伴してくれるボランティアを募っています。ボランティアは現在6名ですが、非常に不足しているそうです。ボランティアは週1回、生徒の登校か下校に同伴します。ボランティア希望者は、同伴開始前に、当校で簡単な講習を受ければよく、特に資格は不要。当校の生徒は、年少でも非常に歩くのが「上手」なので、登下校に同伴するのは、未経験でもそれほど困難ではないとのことでした。

 国の制度で、市町村が窓口となって実施している、視覚障害者の外出介助制度、いわゆる「同行援護(通称ガイドヘルパー)制度」は原則不定期の外出時のみ利用可という決まりで、通学には使えません。ただし「下校後に学童クラブに寄る」などと申請して、通学時にもなんとかガイドヘルパー使用を許可されるケースもあるそうです。
 また中途失明者(当校の高等部理療科には、中年以上の生徒も在籍)や弱視者は、とかく白杖使用を嫌がる傾向があるが、周囲からの安全認知という点でも、学校としては白杖使用を強く勧めているとのことでした。なお中途失明者の白杖歩行訓練については、リハビリセンターのような訓練施設が数カ所あるそうです。

 盲導犬については、18才以上でないと受給できないこともあり、全く視野の外、という印象でした。P先生は、「自分のこともできないのに、犬の世話は出来ません。現在、当盲学校の関係者で、盲導犬を使っている人はいません。」と言われました。
(授業参観でも見かけましたが、この学校の先生にも視覚障害を持つ方が何人かいるようです)。※

    ※(筆者註) P先生の「自分のこともできないのに云々」という発言は、「視覚障害者は自分のことができない」という意味ではなく、「自立するために、まずはしっかりと白杖歩行ができなければ」という思いを込めておられるのが伝わってきました。

   現在、視覚障害者は約31万5000人といわれ、その殆どが白杖歩行か、それに加えて介助者(家族やガイドヘルパー、ボランティア等)を使っています。 盲導犬の使用者は約1000人、0.3%以下です。※盲導犬数は2021年度末には848頭に減少

   以前NHKの「首都圏ニュース」という番組中に、埼玉県立盲学校「塙保己一学園」の高等部で、白杖歩行訓練に尽力しているE先生に関する報道がありました。E先生は、鉄道会社の協力を得て、生徒達にホームから転落した場合の身の処し方なども体験させていました。なお歩行訓練の費用に充てるのか、駅前で生徒や父兄達と募金活動も行っていました。

   このように、盲学校の先生方は、生徒の白杖歩行の習熟に労を注いでおられるようです。今回の学校公開でも、盲学校は白杖歩行に重点を置き、(将来的な)盲導犬の使用を重要な選択肢としていないと、私は認識できました。

   では盲導犬団体は、どこでどのように需要を掘り起こしているのか、非常に気になるところです。「盲導犬を希望し、待っている視覚障害者の数は7800人に上る」と、マスコミや関係団体は報じています。しかしこれは私が知る現実とは矛盾しています

   例えば、3年前に国内最大手の盲導犬団体である、日本盲導犬協会に電話で問い合わせたところ、「盲導犬を申し込めば、一般的に年度内に支給される」との回答でした。また具体的な申し込み者数(待機者数)については、「教えられない」と言われました。日本盲導犬協会の盲導犬育成数は、年に約30頭です。他の団体も全て合わせても、年に約100頭ほどであろうと私は推測します。※盲導犬訓練施設年次報告書によると、2020年度の盲導犬育成数は全団体合計で103頭

   盲導犬の支給は、初めて申し込む人より、2頭目以上の使用者のほうが優先されています。ある盲導犬団体では、2頭目の盲導犬を6才で亡くしたユーザー(盲導犬使用者)が、わずか2、3ヶ月で次の犬を支給されています。4頭目以上を支給されている人もいます。前の盲導犬が早期引退、もしくは死亡しても、その原因などは考慮されないようです。 

   また全都道府県で一番盲導犬実働数が多いのは東京都で、現在五十数頭いることになっていますが、先日東京都の担当課に確認したところ、「盲導犬の予算は年8頭分だが、毎年希望者は10名より少し多い程度で、再給付のケースも多い。予算を増やす予定はなく、増やしてほしいという関係団体からの要望も来ていない」とのことでした(私の知る限りでは、盲導犬の予算は、少なくともこの10年間変化なしです)。

   さらに盲導犬団体は、視覚障害者向けの「盲導犬を使おう」キャンペーンを盛んに開催しています。私はそのキャンペーンのちらしを見たことがありますが、「希望者が多くて盲導犬は不足している、希望してもすぐにはもらえない」とは、ひとことも書いてありませんでした。私は以前「犬がこわくて触れなかったが、盲導犬団体から熱心に勧められて盲導犬を使うようになった」と語るユーザーに出会ったことがあります。またネットの情報ですが、盲導犬団体は犬嫌いの視覚障害者にも、「大丈夫だから」と、盲導犬を勧めているとも聞きました。以上の例は断片的ですが、いずれも「盲導犬を待つ人は非常に多く、盲導犬は不足している」という報道を否定するものです。数千人の視覚障害者が盲導犬を熱望し具体的に申し込んでいるのならキャンペーンは不要なはずです。  

   なお今後は、病気などによって中途失明する中高年の視覚障害者の増加が見込まれ(この傾向はすでに始まっています)、大型犬の世話の大変さや多額の飼育費用を考えると、盲導犬の需要・必要性はますます減ると思われます。

   盲学校関係者や当事者の努力に任せるだけではなく、もっと公的機関が率先して、視覚障害者の白杖歩行を見守り助けるための一般の理解と配慮を具体的に深め、人間が介助する制度をより充実し普及することこそ、多くの視覚障害者に最も有益で、早急の課題ではないでしょうか。

(K.T.)

寄稿3 2014年7月 埼玉・盲導犬「刺傷事件」の顛末

ー盲導犬オスカーの傷は刺し傷ではなく皮膚炎だったー

 『週刊現代』11月22日号(講談社刊)に、7月に埼玉県内で起きた盲導犬刺傷事件に関する記事が掲載された。

タイトルは「衝撃スクープ!日本中が激怒した事件に意外な新証言が… フォークで刺されたはずの盲導犬オスカー 実は刺されてなんか、いなかった」大活字のタイトルとオスカーの写真を含め4ページの記事だ。


1. 事件の概要

 この事件の概要は以下の通り(小学館刊『女性セブン』9月18日号より抜粋・要約)
 7月28日(月)朝、全盲の男性Aさん(61才マッサージ師)が通勤のため盲導犬オスカー(オス8才)と共にJR浦和駅から同東川口駅まで乗車。下車後は徒歩で職場に到着した際、同僚がオスカーが着ている服の右背中の一部が直径10cmほど赤く染まっているのに気づき、服をめくると出血した傷があった。Aさんはすぐに警察に通報し、オスカーを動物病院に連れて行った。患部には直径5mmの穴(傷)が4つ等間隔に並んでおり、深さ2cmに達した穴(傷)もあった。

 Aさんは「オスカーの着ていた服に穴はないので、犯人はわざわざ服をめくって刺している。アイスピックかフォークのような物を使用したんでしょうか。…まだ断定はできませんが、駅のエスカレーターか、電車の中で刺されたのではないかと思うんです」と述べている。

 また、この時オスカーを診察した「なぎの木どうぶつ病院」(埼玉県越谷市)の内田正紀院長(34才)はこう語る。「犬の皮膚は丈夫で…狙いを定めて力を入れないと刺さらないんです。この傷跡を見る限り、悪意を持って相当な力で刺したものと思われます。足の神経に麻痺が残る可能性さえありました。オスカーはずっと痛みを我慢したんでしょう。」盲導犬は無駄吠えをしないように訓練されており、オスカーは刺されながらも、ジッと耐えたのだという。Aさん「少しでも鳴き声があれば気づいたのですが、この子はそんな素振りも一切見せず、普段と同じように、私の側で歩いてくれたので、まったく気づかなかったんです…」。


2. 事件の捜査と顛末

 この事件の後、Aさんの職場の同僚の親族が「これは心ない刺傷事件だ」と新聞に投書したのが大騒動の発端のようで、警察も本来なら受理しない「犬の傷害事件」の被害届を受理し(犬は法律上「もの」扱いのため「障害」ではなく「器物損壊」に相当する)異例の30~40人の捜査員を投入し、捜査に当たったことや、巷に怒りの声が溢れ、芸能人や文化人、政治家までもが怒りのコメントを寄せた※文中赤字は『週刊現代』の記事から引用)ことがこの騒ぎを大きくした。警察が被害届を受理したのは、盲導犬は特別との誤った認識からだろうか。しかし犯人は未だに捕まっておらず、目撃証言もなく、経路駅の100台以上の防犯カメラにも犯行現状は映っていない。

 それどころか、当初からネット上ではこの犬の傷は刺し傷ではなく皮膚疾患では、との説が獣医や人間の傷の専門医の間で広がった。私の愛犬の主治医もこの傷の写真を見て「これが本当に事件当日のものなら、これは刺し傷ではない。刺されてすぐには、周りがこんなに赤くならない」との意見だった(事件当日のオスカーの傷の写真は、複数のマスコミやネットにアップで取り上げられていた)。

 『週刊現代』の記事の結論も、オスカーの傷は刺し傷ではなく皮膚炎だったというもので、渋谷区にある動物病院の院長が実名でその根拠を証言している。この事件の捜査に当たった埼玉県警もこの結論に「到達した」そうだ。

 しかしこの真相を報じたのは『週刊現代』1誌だけで、この事件に乗じて声明発表や陳情を行った盲導犬関係団体(オスカーの育成団体である東京都のアイメイト協会、日本盲導犬協会、全国盲導犬使用者の会等)や、連日この事件を刺傷事件として大きく取り上げ、報道を続けたNHKを始めとするテレビやマスコミからは全く訂正やお詫びもないままだ。特にアイメイト協会は、公式ブログにこの一件を「刺傷事件」とする主張を載せたまま訂正も撤回もしていない。『週刊現代』はアイメイト協会にも取材をしたのだろうか。


3. 事件と記事の問題点

 オスカーには皮膚炎で不幸中の幸いだったかもしれないが、この記事は意外な真相の周知に貢献したものの、いくつかの問題点もある。まず、この事件を利用するだけ利用し、だんまりを決め込んでいる盲導犬関係団体や、盲導犬制度自体の問題点を取り上げる姿勢が全く見られないこと。また、これほどの騒動になった原因を全て警察の不手際と「無責任に騒いだ世間」のせいにして、この騒ぎの火元である事件の当事者たちの責任を不問に付していることだ。

 オスカーを診断した獣医師は、当初の取材では「この傷を見る限り、悪意を持って相当な力で刺したものと思われる。」と語っておきながら、この記事では「刺し傷とは断定していない。皮膚炎の可能性もあった。」と言い換えている。
「オスカーが耳を掻くのさえわかる」と断言したAさんも「刺された時も、犬は普段と全く同じ様子だった」と言い、オスカーが着ていた服には刺した痕跡がないのに、なぜすぐに刺されたと確信したのか疑問に思う。

 なお記事中に、騒ぎを拡大した芸能人の一例としてデヴィ・スカルノさんらの「犯人は絶対に許してはならない」との発言が取り上げられているが、デヴィさんの発言の最大の要旨である「盲導犬は一種の虐待だと思う」という部分は抜け落ちている。また当初は被害者扱いだったAさんも、皮膚炎の悪化に気づかなかったことや、日頃のオスカーの扱い方がネットに上ったことで(室内で、横にもなれないほど短いリードでオスカーを繋いでいる等々)犬の管理能力が問われることになった。

 記事によるとAさんはこの事件が原因で仕事を辞め蟄居中とのことだが、外に出られない生活を強いられるオスカーが大変気がかりだ。(筆者が得た情報によると、Aさんとオスカーはアイメイト協会内に約1ヶ月間「保護」されていたそうだ)。

 なおこの記事にもあるが、(この事件の報道中に)一部では「盲導犬は何をされても吠えないよう訓練されている」という情報も流れたが、盲導犬協会関係者によると「盲導犬は痛みに耐えるような訓練は受けていない」と言う。しかし実際にどんな訓練をしているのか、見学会以外に公開はされていない。

 NHKニュースでは、この事件の報道になぜかオスカーの育成団体である練馬区のアイメイト協会ではなく、横浜市の日本盲導犬協会の内部と訓練の様子を映していた。アイメイト協会は敷地・建物内に訓練場がなく、協会の外で(街中で)訓練するそうなので、両者の内部構造や訓練法はかなり異なるはずだが。

 さらにこの一件が刺傷事件との前提で、盲導犬関係の諸団体が国会議員らに盲導犬への犯罪の厳罰化等の陳情を行った際、「動物犯罪の厳罰化はペット等も同様に」と要望したのは1団体のみで、他は全て厳罰化の対象は補助犬(盲導犬・介助犬・聴導犬の3種の総称)に限るべき(動物愛護法改正でペット等も含めるのはダメ、「人間のための犬」だけを対象に)、との意見だったそうだ。

この事件を単なる世間の空騒ぎとして片付けてしまわず、誰が反省すべきなのか、何が問題なのか、多大な公費も投入されている盲導犬制度や知る機会が少ない盲導犬の実態についてぜひ考えていただきたい。

 最後に、オスカーの傷が皮膚炎ではとの意見を早々に上げ、膨大なアクセス数がついたブログを挙げておく。 

               
毎日が3K日記 盲導犬の傷はフォークか、皮膚病か

(K.I.)

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